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2017年12月10日 (日)

清水潔「殺人犯はそこにいる」(新潮文庫)

評価5

 ミステリーではなく、ノンフィクション。日本推理作家協会賞受賞作。一時、話題になった覆面文庫「文庫X」としても知られる。

 「一番小さな声を聞け」。筆者が自分に課した「縛り」が、1人の男性をえん罪の監獄から救い出した。調査報道の見本といえる好著。

 群馬県と栃木県の県境の狭い範囲で5人の幼女が行方不明になったり殺害されたりした。筆者は、同一犯による事件ではないかと疑う。しかし、いわゆる「足利事件」だけが、容疑者逮捕、有罪確定により、解決済みとされている。
 筆者は足利事件がえん罪であることを報道、再審無罪を導くが、検察は当初のDNA型鑑定の誤りは決して認めなかった。
 さらに、筆者は、犯人とDNA型が一致する人物を見つけ出し、捜査当局に、「ルパン」に似たこの男について情報提供するが捜査当局は動かない。なぜか。
 検察が鑑定を誤りを認めれば、同じ鑑定によって、犯人とされた男が死刑執行された飯塚事件のえん罪も証明されかねない。検察はこうした事態を避けるため、真犯人の捜査にも及び腰とみられる。
 こうして真犯人は今も、捜査を受けず、野放しになっている。



有栖川有栖「ロシア紅茶の謎」 (講談社文庫)

評価3

 大学助教授、火村英生とミステリー作家、有栖川有栖のコンビを主人公とするシリーズ第1作の連作短編集。そこそこおもしろい。

「動物園の暗号」
 動物園で起きた殺人事件。被害者が残した暗号の謎がテーマ。被害者がそもそも暗号をつくった意図などがよく分からなかった。面白くなかった。

「屋根裏の散歩者」
 アパートの大家が殺害された。一方、付近では女性を狙った殺人事件が連続。アパートの住民の一人が犯人で、それに気づいた大家が口止めのため殺されたらしい。大家は屋根裏から住民たちの部屋をのぞいて、様子を書き記していたが、どの記述かだれの様子か分からない。火村が仕掛けた罠とは。

「赤い稲妻」
 マンションから女性が転落する。目撃者によると、ベランダにはもう一人の人物がいたが、部屋には鍵がかけられていた。いたとすると、どこから出たのか。女性は弁護士の不倫相手だったが、弁護士の妻も、間もなく、踏切で車に乗ったまま電車にはねられ亡くなった。

「ルーンの導き」
 中国系米国人の編集者が殺害され、占いに使われるルーン文字が書かれた石を4つ握っていた。その意味は。石が4つだったこと、被害者が編集者であることがヒント。

「ロシア紅茶の謎」
 作詞家の男性がパーティーで青酸カリをもられ殺害された。現場からは青酸カリを入れた容器も見つからない。だれもに動機があるが、毒を入れたタイミングや手段がまったく分からない。火村が見破った、犯行手口とは。

「八角形の罠」
 劇団のメンバーがホールの練習室で毒を注射器で注入され殺害された。しかし、凶器の注射器はだれも身につけておらず、意外なところから見つかった。一方、さらに別の劇団員がたばこに仕込まれた毒で殺害される。
 ホールの見取り図が掲載され、読者は作者から謎解きの挑戦を受ける。

 
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2017年10月28日 (土)

佐々木譲「沈黙法廷」(新潮社)

評価3

 タイトルにもある「沈黙」は、一連の事件すべてに通底する何かを隠すための沈黙だと想像し、どんな真相が現れるのか期待していたが、実際には法廷で沈黙を通すのはごく一部。しかも、事件そのものに関することではなく、元恋人への配慮という、いわば小さな理由での沈黙に過ぎず、がっかりした。もちろん、主人公の人柄を描写するため、また、裁判員裁判での判決を導き出すためには非常に大きな要素ではあるが、事件の大きな枠組みとは関係がない。
 まぁ、こちらが勝手に、こういう流れだろうと想像するのが悪いのですが。

 以下、ネタバレあり。

 東京・赤羽で、1人暮らしの高齢男性が殺害され、300万円がなくなった。フリーの家事代行業の女性、山本美紀が男性宅を訪れていたことが判明する。赤羽署の伊室刑事は捜査1課の鳥飼と共に、山本に任意同行を求めるため、山本宅を訪ねるが、すでに埼玉県警大宮署の刑事が到着しており、山本を連れ去った。1年半前に高齢の男性が殺害された別の事件の捜査という。刑事たちは、首都圏連続不審死事件と同様の事件ではないかと疑う。

 伊室らはさらに、山本が家事代行業者から派遣されていた先で、高齢男性が自殺していたことを突き止める。

  埼玉県警は山本を逮捕するが、検察は処分保留のまま山本を釈放する。警視庁はその日に逮捕。山本は起訴された。

 メディアの取材によると、山本はかつて中川綾子と名乗り、川崎市の高齢男性と交際して数百万円を引き出していたという。

 一方、3年余り前、中川綾子を名乗る女性と一時交際していたが、突然行方をくらまされた弘志はニュースを知って驚き、裁判を傍聴する。

 山本は、傍聴を連日続ける弘志と目が合ったとたん、被告人質問で回答を拒否し始めるが、弁護士に説得されて、話し始める。そして、裁判員が導き出した結論は…

 【残念な点】

 新聞が容疑者を呼び捨てにしている部分があるが、あり得ない。筆者はいろいろ取材を尽くしているようだが、こういう基本的なミスがあるとリアリティが失われる。

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三上延「ビブリア古書堂の事件手帖7 栞子さんと果てない舞台」 (メディアワークス文庫)

評価3

 シリーズの最終巻。といっても、後書きによれば、番外編やスピンオフがあるようです。

 シェークスピアの最初の戯曲集「ファースト・フォリオ」に関する謎解きから、栞子さんの家族を巡る謎が明らかになる。母親、そして、大輔との関係は…

 栞子は、祖父が娘(栞子の母)に残したファーストフォリオの謎に巻き込まれる。オークションに出されたファーストフォリオ3冊のうち、本物はどれか。栞子は母親と競り合う。
 オークションの場面など、大輔の熱い思いが伝わってきて、感動的。
 ハッピーエンドで良かった。

 【誤植】
 211ページ4行目「確認してしていただきましたが」と「して」がダブっている。



2017年10月20日 (金)

湊かなえ「絶唱」(新潮社)

評価4

 4編から成るイヤミス感のない連作短編集。なかなか感動的な物語だと思う。
 舞台は主にトンガだが、登場人物はいずれも阪神大震災で家族や友人らを亡くした過去を背負っており、登場人物も重なっている。
 4作目はこの前の3編を書いた小説家「わたし」自身の物語で、この作品群を書いた背景がつづられている。
 湊かなえは実際、青年海外協力隊員としてトンガに赴任した経験があるらしく、そのときの経験が執筆の背景にあるのは確実だが、どこまでが実話かは不明。

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2017年10月14日 (土)

湊かなえ「豆の上で眠る」(新潮文庫)

評価3

 誘拐から2年後に戻ってきた姉は、本物の姉なのか?
 主人公の女性は大人になってもわだかまりが消えない。
 不思議な縁で結ばれた姉妹の物語。
 湊かなえにしてはイヤミス感の薄い作品。

 以下、ネタバレ注意。

 結衣子が小一だった8月のある日、姉の万佑子が行方不明になった。2年後、万佑子が帰ってきたが、風貌が違うことなどから、結衣子は偽物ではないかと疑う。しかし、DNA鑑定で両親の実子であることはほぼ確実だった。
 大学生になった結衣子は、帰省の際、万佑子と別の同年代の女性、遥をみかける。
 結衣子は、戻ってきた万佑子でなく、誘拐される前の万佑子の方が偽物だった可能性に気づき、愕然とする。
 明らかにされた真実は、結衣子の考えていたのとは反対のものだった。万佑子と遥との関係は? そして結衣子の本当の姉はだれ? 実は両親もすべて知っていた真相とは?


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2017年10月 9日 (月)

池井戸潤「ようこそわが家へ」(小学館文庫)

評価3

  銀行から電子部品会社に総務部長として出稿している倉田太一は息子、娘らと4人ぐらし。ある日、駅のホームで割り込もうとする男を注意したところ、家までついてこられ、嫌がらせを受ける。花壇を荒らされたり、車に傷をつけられたり、パンクさせられたり。さらに、家の中から次々と盗聴器が見つかる。一方、会社では、不正を行っているとみられる営業部長と対立する。

 主人公は平凡なサラリーマン。彼が、誰でも実際に遭遇しそうな事件に巻き込まれる。
 ちょっと気弱で、争いを好まず、ヒーローでもなんでもない彼が、家族を守り、職務に誠実であろうとする姿に好感。

 以下、ネタバレあり。

 倉田は、嫌がらせ犯をおびき出すが、息子が刺されてしまう。犯人は捕まったが、息子の知人だった。つまり、当初の嫌がらせ犯とは別人だったのだ。
 その後、倉田は偶然再び出会った嫌がらせ男から、さらなる嫌がらせを受けるが、自宅に設置した防犯カメラの映像から犯人を見つけ出す。
 営業部長の不正も最終的には暴き出す。


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2017年10月 2日 (月)

長岡弘樹「時が見下ろす町」(祥伝社)

評価4

 8話から成る連作短編集。登場人物は、大時計を掲げる時世堂百貨店の関係者だったり、その近隣に住む(あるいは住んでいた)人たち。「時が見下ろす町」というタイトルはそこから来ているようだ。8編は時間をさかのぼって配列されている。ときどき、登場人物が重なるのが、全体に深みを与えている。

 以下、ネタバレあり。

「白い修道士」
 寝たきりの夫新造を持つ女性、和江。孫娘は、和江のある計画を見抜き、巧妙に阻止する。

「暗い融合」
 電車で痴漢の疑いをかけられたデパート従業員、野々村。カウンセリングに通うクリニックの医師と、医師である野々村の妹は同じビルに務めており、不倫関係に陥った。痴漢事件は、その不倫をやめさせようとする、ある者のたくらみだったが。ちょっと無理があるような展開…

「歪んだ走姿(フォーム)」
 女児連れ去り未遂事件の犯人を追う刑事、藤永が駅伝大会の選手にかり出される。監督の雁屋はフォームを変えるよう指導。藤永はアンカーだったが、女児連れ去り未遂事件の目撃者でもあるかばん会社の男性ランナー、野々村に敗れる。野々村が土壇場で踏ん張りを見せた理由とは。

「苦い確率」
 暴力団のフロント企業に務める五木は、ピーナッツアレルギーを持つ。賭博で負け続けた挙げ句、ほかの同僚2人とともに、首をかけたさいころゲームをやらされる。その狙いは、組幹部が、最もツキのないヤツを探し、ボクシング賭博で逆張りをするためのものだった。五木はピーナッツアレルギーのおかげで最後に救われる。ちょっとあり得ない展開か。

「撫子の予言」
 ドラッグストアのバイトをする新井智久の前に現れ、「ちゃんと合わせておけ」と意味不明の言葉を吐いた奇妙な客に、新井は自分の財布から銀行でおろしたばかりの金を釣りとして渡した。直後、新井が訪れた向かいのカフェでこの男らしい人物が千円札を盗んだ。新井の恋人、七波杏子は、同棲を受け入れる代償として、新井に名字を自分の姓に変えるよう求めた。犯人像に気づいた杏子が、犯人のおびき寄せに使った手とは。

「翳った指先」
 級友の門脇から恐喝される中学生の父親は、門脇の父親の会社の警備員をしていたが、窃盗事件を防げずに解雇された。門脇の命令で行った中古ショップの店長を見て、中学生はあることに気づく。コピー機で偽札をつくるが、その狙いは…。これも納得しがたい展開。

「刃の行方」
 拉致された少年、五木は、不良グループの使い走りをさせられていた。少年が通っていたフリースクールの教諭は責任を感じているが、すい臓がんにかかっている。その主治医は五木の父だった。五木の殺害をめぐる手記が教諭に届く。病気を治す最良の方法は病気を忘れることと言う主治医がとった治療とは。

「交点の香り」
 新造はボランティアで時折訪れる児童養護施設の教諭である和江の家に盗みに入ったが、そこへ和江が帰宅する。新造は和恵が盲目だと聞いており、息を潜める。和江は障害者年金を受け取るため、盲目だと偽っていたが、それが発覚するのを恐れ、新造に気づかないふりをする。しかし、2人とも、和江のミスに気づく。さらに、この事件には意外な仕掛け人がいた。

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薬丸岳「ガーディアン」(講談社)

評価4

 主人公の教師が赴任したのは、一見あまり問題のない中学校だが、裏では、生徒たちが組織した自警団「ガーディアン」が生徒たちの不良行為を取り締まり、集団的な無視などの制裁により、問題児らを不登校に追い込んでいた。

 登場人物が非常に多く、ときどきページをめくり返した。じっくり楽しみたい人は人物相関図をつくりながら読むといいと思います。「刑事のまなざし」シリーズの夏目刑事もちょい役で出てくる。

 以下、ネタバレあり。

 途中までは面白かったのだが、実はガーディアンの存在をほとんどすべての教師が知っており、それを黙認し続けた理由がちょっと納得できず、興ざめ。
 また、最後にはみんないい人になってしまうのも…

 ガーディアンのシステムに内部から疑問を持つ子も現れ、主人公の教師秋葉も活動をやめさせようとする。結局、ガーディアンが問題解決につながらないことに気づいた生徒らはガーディアンを卒業する。中学生、高校生にも読んでもらいたい。

 しかし、最後の場面はどう解釈したらいいのか…
 蛇足のような気もする。
 
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貫井徳郎「ドミノ倒し」(創元推理文庫)

評価2

 私立探偵が主役のコメディタッチのミステリーだが、結局事件の全容は分かるものの、めちゃくちゃな内容で、リアリティーのかけらもない。事件は解決されず、主人公や関係者の行く末も不明のまま、投げ出されておしまい。

 以下、ネタバレあり。
 地方都市、月影市の私立探偵、十村に依頼があった。世良朱実という女性の殺人事件で疑われている前山耕一の無実を証明して欲しいという前山の元彼女江上友梨からのものだ。地元の警察署長、新明佑は十村の幼なじみ。

 署長からの情報で、世良の足の裏には故意につけたバツ印の傷があり、かつて起きた大関善郎の殺害事件と同様であることが分かり、十村は大関の事件も調べる。さらに大関は3年前の幼女殺しの「容疑者候補」だったことも判明する。
 十村は、養女に出されていた世良の双子の姉、田ノ浦好美と出会う。世良は東京で結婚詐欺まがいのことを繰り返していたという。
 署長の情報で、小平という大学生がガスを吸って死亡していたことが判明。自殺として処理されていたが、ノートにはバツが書かれていた。小平は当時、ネズミ講まがいのアルバイトをしていたという。
 調査の過程で、警察官からさまざまな妨害が入る。蓋をあけてみれば、警察も含め市民の多くが、犯罪者らに容赦ない人物たちだった…

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